事業再生への「道」

デルタ経営コンサルティング
事業再生のポイント

どうして私的整理は進まないのか


世間の皆様は、法的整理になるぐらいなら、私的整理でまとめた方が債権者である銀行にとっても「得」なのではないか、と素朴に考えておられると思います。
確かに。机上の計算ではおおむねそうなると思います。数字がある方がやや分かりやすいと思うので下記に例を示してみます。
まず、債権者にとっては、無担保債権のロスが指標となると思いますが、〔私的整理▲50〜80%、再建型法的整理▲90%〕といった所でしょう。「何もしない(判断回避・先送り)」という選択肢もあります。その場合はいつかサドンデス(破産)に至ると考えられますので、ロスは▲95%といった所でしょう。ロスだけを見れば、私的整理を一生懸命進めるのがベストということになります。
次に、債務者企業にとっては、事業価値の減少度合いでとらえるのが良いと思いますが、〔私的整理0%、再建型法的整理▲20〜30%、サドンデス▲100%〕となります。つまり、債務者企業にとっても私的整理がベストなのは自明、ということになります。
念のため、債務者企業の意思決定を担う代表取締役についても検討しますと、中小企業では債務保証をさせられているので彼の私財を失う割合で評価しますと、〔私的整理▲80%、再建型法的整理▲100%、サドンデス▲100%〕となり、私的整理以外に選択肢がないことは自明です。
しかし、ここに人間らしい価値判断の問題が絡んできます。債権者側にとっての、各選択肢に対する心理的・組織的コストを検討してみると〔私的整理50〜100%、法的整理0%、サドンデス(何もしない)0%〕となり、できれば私的整理は避けたいところです。
なお、債務者企業は、「意思」があるかという議論は別として、私的整理がベストであることは既に述べました。
残る代表者にとっての心理的コストとしては、私財のロスと同様に〔私的整理80%、法的整理100%〕ですが、何もしない「サドンデス」は0〜100%と、現状認識度合いにより私財のロス割合とは見合わない値となるものと考えられます。
つまり、債権者側にとっては、経済合理性の問題の前に、余りにも私的整理への心理的・組織的抵抗が強く、なかなか検討に踏み切ることが困難ということになります。なお悪いことに、企業代表者が現状を冷徹に分析できているケースは少なく、「何とかなるさ」と思っていたりするため、債務者側から持ちかけることも通常は稀です。
これらの背景には、いわゆる「現状維持バイアス」という「分からない将来のリスクは避け、折角確保している現在のステータスを維持したい」という人類共通の心理的傾向があります。個人を責めても仕方がありません。
そこで個人的には、上記のような問題を解決し、社会的・経済的な無駄を減らす為には、例えば次のような仕組みが良いのではないかと考えています。
それは、銀行融資の大半に厳格なコベナンツを適用することです。
債務者企業の業況がやや悪化した段階で早めにコベナンツにヒットさせることで、銀行にとっても早い段階で「条件緩和か、更なる私的整理か、債権売却か、それとも野垂れ死にさせるか」という決断を機械的に迫られることになり、ひいてはゆでがえるになりつつある代表者にも早期にお湯の温度を自覚させる機会を与えることになります。
心理的コストが高いのであれば、機械的に初動段階が発動するようにする、そういったご提案です。
「私的整理をなぜ進めないのか」と本部から現場が責められるぐらいになれば、不況下に漂う閉塞感も緩和されるような気がするのですが…。ただ、債務者企業にも再生に値する強みや事業力がないといけないことは言うまでもありません。

キーワード>私的整理 法的整理 経済合理性

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